この後に、現在もメダル陳列室に保存されている、ド・ジェルヴィル氏の石膏で型取りしたコレクションはフアルダンが寄贈したことが記され、古銭学に対する共通の趣味がパリの主要人物で商人のカミーユ・ロリン氏をひき合せ、最後まで炯眼と専門知識は衰えることなく共同経営者として事業を拡張し続けたとあり、業績を讃え、出版したカタログが列記されていますが割愛。
抜粋記事終了 ━
○ 以上の記載でミレーとの関係を再考してみます。
何年からか明確ではありませんが、書店員以外に、趣味の分野で評価を得、それなりに収入もあったのではないかと思われます。つまり、1840年代にダゲレオタイプの写真機を取り扱うにはかなり費用が掛かり、一介の店員がいくら好奇心があってもたやすく扱えたとは思えませんでしたが、これで事情がわかりました。
1854年にド・ジェルヴィル氏 (ド・が付くので貴族階級と思われます) より収集品の遺贈を受け、その時、書店主兼印刷業者になれる幸運に恵まれたことが、この記事でわかります。
ちょうどこの年に、ミレーは家族を引き連れてシェルブールで夏の4ヶ月を過ごしています。想像に過ぎませんが、フアルダンがミレー一家を銀板写真に残していることなどを考えると、ミレーは先年母親が亡くなったことで郷里に帰っているので、その時にフアルダンとの旧交を新たにし、フアルダンからの誘いもあり、妻と子供たちのために里帰りを決めたのかも知れません。
1856年4月30日に1850年生まれの三女マルゲリットの洗礼の代親をバルビゾンでフアルダン夫妻がつとめています。と言う事は、ミレー家との交流がかなり緊密になっている事が窺がえます。一つにはフアルダンがシェルブールからパリに出てくるようになったのではないかと思われます。
1860年にフアルダンはパリに拠点ができ、この年はミレーの方も、月千フランの契約が成立し、経済的に安定しました。
そして、1870年8月普仏戦争を避けて、シェルブールに疎開、フアルダンの家に身を寄せたとありますが、パリに拠点を移していたフアルダンがミレーを誘って一緒に疎開したとは考えられないでしょうか? パリ・コミューンに続く混乱で、滞在が長引きそうなので、ロンドンに画廊を構えたデュラン・リュエルに画を買ってくれるように頼み、何とか家を借りる資金を得ています。そして、1871年にフアルダンの息子と、ミレーの長女が結婚し、ミレー家とフアルダン家は親戚になるわけですが、ミレーとフアルダンのそれぞれの変化の時期に繋がりがあるのは、偶然とは思えない関係を感じます。
最後に、追悼記事には彼の写真について何も触れていないことから推測すると、サントム氏の論文にある「フアルダンは首都パリに出て、国際的に著名なメダル・古銭学の研究家となるが、やがて写真術に打ち込み、その才能を表わし」の部分をどう読んだらよいのか? オルセー美術館に残されている写真は銀板写真だけで、それ以外の写真はありません。(
【追記】2006/04/24オルセー美術館ではなくルーブル美術館に1873年にフアルダンが撮影したミレーの椅子に腰掛けた写真が保存されていました。服装から判断して、反転画像ではないので、年代から野外撮影に適した臭化ゼラチン乾板写真ではないかと思われます。従って、次に記す疑問は、フアルダンはダゲレオタイプ以後も間違いなく、趣味の写真を撮り続けたことになります。4章の【追記】の時にも、別のカタログでもフアルダン撮影の最晩年のミレーを見、少し気になっていましたが、この項を読み返すまで、フアルダンが写真を撮り続けていた証拠があったのに結び付けられなかったことを反省します。フアルダンの写したミレーの家族とミレーの国立図書館保管の銀板写真がオルセー美術館に保管場所が移ったことで、オルセー美術館の写真資料ばかりに目が行ってしまい、ルーブル美術館所有の写真に注意を怠りました。今回、ルーブル美術館保管の「ミレーの家」と「ミレーの晩年」の写真が新たなミレーの資料として、かなり貴重な事実を教えてくれました。)1907年迄生き、1871年にミレー家と親戚になっている彼が、他に写真を残していないのでしょうか? 未公開の写真が存在するのでしょうか? ミレーの肖像と、銀板写真という希少価値で国立図書館に保存されましたが、他の写真は散逸してしまったか、まだ整理されていないのかもしれません。しかし、サントム氏の記述が追悼文以上の情報を含んでいないことからも、フアルダンの生涯はそれ程調べられていないようです。
フアルダンの銀板写真画像を掲載しようと思いましたが、ミレーの本ページに掲載してあるので、重複を避けました。フランス国立美術館連合の画像サイトでフアルダンの銀板写真が見られます。興味があれば見てください。
Webアドレスは http
://www.photo.rmn.fr で、名前のスペルは FEUARDENT です。